Fランク進化論

社会人になるまでまともに勉強したことなんかなかった。中学や高校の定期テストの前は人並みに勉強したけど、大学受験の受験勉強はまったく続かなくて、いわゆる「Fラン」と呼ばれる偏差値の低い私立大学の工学部に入った。大学でもバイトの毎日で勉強はほとんどせず、気付いたら卒業が近くなってて、流されるままに就活し、就職は社員100名くらいの小さな建設会社に決まった。工学部を出ていたから設計に配属されたものの、設計の仕事は思った以上に難しく、よくミスをして怒られた。

ある日、高卒の先輩から「あいつはアホ大出身だから」と言われているのを聞いた。自分でも「俺アホ大ですから」とよく卑下していたが、他人から言われているのを聞いて妙に腹が立った。俺は、高卒の人間からも馬鹿にされたままでいいのか。

それから周りの社員を見たら皆死んだ目をして、口を開けば「給料が低い」と愚痴っていた。

こんな風になるのは嫌だ。アホだと呼ばれ続けるのも嫌だ。

その日の帰り、俺は建設関係の最高峰の高難易度資格、1級建築士の資格を取ることに決めた。会社では2級建築士の資格を持っている人は2人いたが、1級はいなかった。この合格率の低い試験に合格したならアホと呼ばれずにすむと思ったのだ。

本屋で参考書を買ったが問題が全く分からなかったので、独学は最初から諦めて、思い切って自腹で資格学校に通った。もともと頭が悪い上、働きながらだったので3年もかかったが、何とか合格することができた。小さな会社だったがブラック企業ではなくて、ちゃんと週休2日だったことも働きながら合格できた要因だと思う。

合格を会社に報告したら、設計部長はおろか社長まで喜んでくれて、お祝い金を頂いた。資格手当が付くようになって給料が少し増えた。設計の仕事も、勉強したことで理解が進み、以前のようなミスは少なくなった。また、設計関係でトラブルや疑問があると、まず俺にみんな相談に来るようになった。役員クラスの人でも俺に相談を持ってくるようになった。少しだけ、仕事が楽しいと思えるようになってきた。名刺には1級建築士という肩書が入り、以前より、学歴にコンプレックスを抱かなくなった。

今、俺の会社の玄関には一級建築事務所の看板が飾られ、管理建築士として俺の名前が掲げられている。

それで、俺が何でこんなことを書いたのかと言うと、昨日電車で「俺アホ大出身ですから」と話している若いサラリーマンを見かけたからだ。俺も昔そうだったから分かるが、Fラン人間が自分でアホと言うことほど情けないことはない。世間からはFランの人間より高卒の方がまだマシだと見られている傾向すらある。一生アホのレッテルを貼られて、自分を卑下して生きていくのもいいかもしれないが、それが嫌なら学歴差別を批判する前に、資格なり何なりを取る努力をした方がいいと思う。いくら学歴社会を批判しても、結局自分の劣等感は消えることはないのだから。

俺はたまたま建築関係の仕事で1級建築士という資格があったから目指しただけで、ITや文系の資格は、どういったものがあるのか俺はわからない。それに、Fラン出身者はブラック企業に入る奴が多くて、検定試験の勉強する時間なんてとてもない友人も多い。そいつらの話を聞くたびに、俺は職場環境には恵まれていたんだと思う。

ただ、俺と同じ大学の文学部卒の友人も、小さな商社に就職した後、一発奮起して英検1級を取ったら周りの奴の見る目が変ったそうだ。俺と同じく3年かかったそうだが。何か自分の仕事とリンクしたものを見つけて欲しい。

俺自身、仕事で成功したと思い上がっているわけではないし、まだまだ建築の勉強は必要だ。だた、たった一つ試験に通っただけで、周りの目は変る。コンプレックスも多少はマシになる。

昨晩電車で見た「俺アホ大出身」の若いサラリーマンに向けて俺なりの文章を書いてみた。ここまで読んでくれてありがとう。

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